2007年9月10日月曜日

生きる

9月8・9日の黒沢リメーク版ドラマを見た。
両作品とも原作をなぞった忠実な作りになっていた。両作品とも時代を現代に置き換えているので、両方を見た人にはやや不自然な点も感じることがあるだろうが、そんなことは細かいこと、出演者も芸達者な俳優を揃えてよく仕上がったドラマだと思う。

「生きる」の感想。
この映画は2つの部分に分かれている。主人公ががんの告知を受け、余命を知って、役所を休んでヤクザと遊び回って今まで知らなかったことを一気に知ろうとしたり、元部下の天真爛漫な女性職員から何か人のために作り出すことを教えられるまで。ここでいきなり主人公の葬式場面になる。原作を見たときはあまりに早く葬式場面が出たのに驚いた。でも物語が進むに従って納得した。後半は葬式に出た個性的な人々が、主人公が公園を作るために孤軍奮闘する場面を回想で描いている。この構成は原作と全く同じ、実に巧みな描き方で見る人を引き込む。

この作品は「全国市長会推薦作品」にすべきである。最初の部分に市民の要望を「たらい回し」する場面が登場する。役所なのに自分たちで「休まず、送れず、働かず」などという。
舞台は昭和27年だが、今の役所はそれほどひどくはない。社会保険庁は例外として、お役所の対応はずいぶん改善されている。それでもときには「たらい回し」になることがあるが、それは縦割り行政のせいで、職員のせいではない。しくみの欠陥に手を入れない上層部の怠慢には腹が立つが。

重箱の隅をつつくようなことだが、原作は胃がんだったがドラマはすい臓がんに変わっている。これは50年前は胃がんは死の病気だったが、今は検査技術の発達で胃の全摘でも生きられる時代になったので、現代でも発見の難しいすい臓がんに変わったのだろう。

原作で志村喬が劇中で歌う「ゴンドラの歌」。ドラマで主人公が口ずさんで耳に残るが、今の定年前の50代男性でも、この歌を口ずさむだろうか?65歳の私にも相当古い歌だが。でもリニューアルで何の歌にすればよいかと考えるとき・・・あまり思いつかない。これしかないか?

この映画はトム・ハンクス主演でハリウッドリメイクが予定されているそうだ。

7 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

DVDで今も「生きる」を見ていますが、志村喬の役は本当に良くできていますね。現在は胃ガンは早ければ結構治癒していますね。野球の監督さんで元気に現役に復帰していますね。この映画では発見が遅れて、転移もある可能性が前提で、当時としては死の宣告であったのですね。何回みても、人間の永遠のテーマである如何に死ぬか、を厳しく問う秀作ですね。

匿名 さんのコメント...

大さん
映画のちょうど真ん中あたりのシーン。若い女性と最後のデートをするとき、女性が工場で作っている動物のおもちゃを見て「自分の命はあと半年しかないが、一つでも良いから何かを自らの手で作り上げよう」と決意して階段をおりて行く時に、階下のお客さんが歌うハッピーバースデイのコーラス。(憶えていますか?)これは主人公のたった半年の第2の人生の始まり・・・を意味しているそうです。黒澤明の脚本はどんな小さなシーンにも意味がある濃い作品ですね。

   さんのコメント...

 TAMYさん
 久しぶりです。
 イレッサは副作用のみで奏功せず、CEAマーカーは着実に上がって空しく敗退でした。
 12日ジェムザール点滴第一回を受けて退院、3週スパンで、2回目は4週目となります。ニキビだらけの顔で帰宅しました。

匿名 さんのコメント...

ハンフリーさん
入院お疲れ様。イレッサだめでしたか。ジェムザールだと私と同じですね。奏功を期待します。「情報スクラップ」に新しい抗がん剤のニュースを載せました。試行錯誤でも自分に適するモノにぶつかることを祈ります。そのためには候補がたくさんできることは良いことです。

匿名 さんのコメント...

ハッピーバースデイのコーラスの意味はそういうことだったのですか。
死とかを考えることもない未来ある若者と死を意識している主人公との対比とずっと思っていました。
確か、音楽は早坂文夫でゴンドラの唄では、逆回転というかなりの録音テクニックを使ったと聞いています。

匿名 さんのコメント...

tamyさん、ハッピイバースデイの歌が聞こえるとのことですが、そこまで黒沢が考えて制作しているとは気が付きませんでした。ただ、私が目に焼き付いた場面はブランコに乗って雪のふる中でゴンドラの歌を歌っている志村喬の演技のすばらしさは今も残っていますね。

tamy さんのコメント...

きんやさん
ゴンドラの唄はこの映画の中で象徴でしたね。リメーク版で時代背景に合わせるために変えた点(胃がん→すい臓がん、レントゲン→CT等々)で、ゴンドラの唄は現代なら何の歌だろうと興味がありましたが、前作での印象が強すぎたせいか、変えることはできなかったようですね。

大さん
ハッピーバースデーの歌の意味は随分以前に何かの本で読んで、頭に残っていました。黒澤作品は何から何まで、どのカットにも一つとして無駄はないようです。背景の片隅に写る茶箪笥とか時計までその時代の本物を探させるそうです。だから、時間も金もかかりますよね。黒澤作品は日本が誇る文化遺産だと思います。